大判例

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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)3961号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕本件建物は被告和田が住宅金融公庫から建築資金二三万円の融資を受けることで建築に着手したが、途中資金に窮して、右の融資を受け得る権利を訴外川崎重雄に代金三万円前後で譲渡し、川崎が公庫に対する融資金返還債務の履行を引受けたうえ、家屋の外形がほぼ明らかになつたが未完成の状態で、昭和二八年三月三一日これを原告に代金九〇万円、但し内金二三万円は被告和田の公庫に対する融資金返還債務の履行を新たに原告が引受ける約定で売渡した。原告はさらに改造費用三八万円を追加支出して、川崎に建築工事を続行させ、昭和二八年七月頃完成したが、公庫との関係があつて、被告和田名義で所有権保存登記をした。そのため昭和二八年七月七日原告と被告和田との間で、本件建物が原告の所有であることを確認したうえ、(イ)被告和田は原告に本件建物を譲渡すること、(ロ)本件建物には被告和田が住宅金融公庫から借受けた金銭債務につき同公庫のため担保権の設定登記があるので、原告は被告和田に代つて右債務を弁済することとし、右弁済の結果訴外公庫の担保権設定登記が抹消された時に、被告和田は原告に対し所有権移転登記手続をすること、(ハ)被告和田は前項に従い原告のため所有権移転登記手続が完了するまでの間に本件建物を他に処分してはならないこと、(ニ)被告和田が右契約に違反したときは、違約金一〇〇万円および原告が同被告に代つて訴外公庫に弁済した金額を原告に支払うこと、以上の約定がなされた。ところが被告和田は、昭和三〇年八月九日訴外佐藤嘉彦に本件建物を売却し、佐藤は同年一〇月六日被告丸楽商運株式会社にこれを転売し、いずれもその旨の所有権移転登記がなされた。そこで原告は、本件における予備的請求として、被告和田に対し、右違約金一〇〇万円と原告が公訴に立替弁済した九一、八三五円の支払を求めた。被告和田は、仮定抗弁として、同被告は原告に対し昭和二九年一一月一〇日金一〇万円を弁済期昭和三〇年五月一〇日、利息月一分六厘と定めて貸与したが、その債務担保のため本件建物につき代物弁済の予約を結び、原告の弁済がなかつたので昭和三〇年八月五日頃代物弁済予約完結の意思表示をし、本件建物所有権を取得したので、その所有権に基いて本件建物を佐藤に売却したのであり、前記契約違反の責任は生じないと主張した。原告は、右代物弁済予約は原告の無思慮と窮迫に乗じて債務額の一〇倍以上の暴利を得ようとした行為であるから、公序良俗に反する無効なものであると再抗弁した。

判決は、右一〇万円の貸借成立の事情について、原告が本件建物取得のため負担した債務の返済に苦慮した結果、被告和田に一〇万円の借用を申し込んだが、代理人たる原告の母が担保の形式については何の知識もなく、前後の事情を考えることもなしに契約書に署名捺印したこと、右契約書の上では利率月一分六厘と記載されていたが、被告和田が現実に一〇万円を交付する際に一カ月八分とすることを要求し、結局一カ月五分に切り下げて承諾せざるを得なかつたこと、原告が右利息を被告方に持参させていた訴外小宮山が所定期日に遅れて持参したことがあつたところ、被告和田は以後利息の受領を拒み、弁済期が到来するや本件建物を代物弁済として取得したと主張して、原告側の弁済に関する再三の申出に一切取り合わなかつたことなどを認定したうえで、次のように判示して原告の再抗弁を容れた。曰く、

「被告和田の債権は、元本一〇万円、利息は利息制限法所定の最高利率によつても年一割八分の割合で請求できるにすぎないから、半年間の利息は九千円となり、元利合計一〇万九千円であるところ、他方、代物弁済予約の対象になさしめた本件建物の時価は、前示認定のとおり原告が代金九〇万円で買取りこれに三八万円の追加工事費を投入して完成したものである(ただし代金の内二三万円は債務の履行を引受ける形で支払う約束であつた)ことおよび予備的請求原因となつた違約金額が当事者間で一〇〇万円と定められていることならびに……を綜合すれば当事一〇〇万円前後であつたものと推認するのが相当であるから、被告和田の元利債権の九倍前後の価値があつたことになる。しかも、前示認定のような本件消費貸借および代物弁済予約がなされた経過からみれば、被告和田の父は同被告の代理人として金銭消費貸借契約および代物弁済予約を締結するに当り、原告の代理人であつた井能二次恵が母子の生活を維持し債務を弁済するに足る収入を得る必要から一〇万円の資金調達に苦慮しているのを利用し、同女の思慮が浅いのに乗じて、控え目に見積つても債務額の九倍に達する本件建物を代物弁済予約の対象となさしめたうえ、これを取得しようと図つたことが窺われ、とくに、本件建物の建築が住宅金融公庫の融資を利用した関係で被告和田名義で所有権保存登記されているため、真実の所有者である原告において正規の担保に供することができない状態にあることを利用し弁済資金調達の途を封じるため、本件建物の賃借人に対し原告に賃料を支払うことを差止めた形跡さえあり(証人小宮山吉治の証言から窺うことができる)、原告側からの弁済方法に関する協議申出や調停申立を故意に回避したのも、本件建物を利用して原告が弁済資金を調達することを封じるにあつたことは推測するに難くない。このような事情の下になされた被告和田の代物弁済予約とその完結権の行使は、債務者の浅慮、窮迫に乗じて暴利を追求する行為と認定して妨げなく、公序良俗に反して無効なものと認めるのが相当である。」(石田哲一 滝田薫 山本和敏)

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